KATAYAMA SANGYO Co.Ltd Presents talk session.

アイガモを使った米の有機栽培に取り組む三船進太郎さんを訪ねた
岡山県真庭市(旧:中和村(ちゅうかそん))。 片山産業本社のある岡山市から、岡山自動車道を北上。全国の露天風呂の中でも西の横綱として名高い湯原温泉のある湯原ICで下車。 そこからさらに車で20分。清らかな水と空気のもとで、アイガモを使った米の有機栽培に取り組む三船進太郎さんを訪ねた。

農業とは何か

中和村の田んぼ

片山産業社長片山芳孝と三船進太郎氏との出会いは、平成9年に三船氏が中和村で開催した「こだわり、よいものを」と題した、本来の農業のあり方を問いかけるシンポジウムに片山社長が参加したのが始まり。

以来、二人は意気投合し、今ではビジネスの枠を越えて、家族ぐるみのつきあい。年齢も同年代。なにより、健康でおいしいお米を作りたい。おいしいお米をたくさんの人に届けたい。米食のよさを見直してほしいとのお互いの気持ちが、二人を強力に引き寄せた。

「高校を出て、大阪に就職。家の跡を継ぐために33歳の時にこちらに帰ってきたけど、若い頃は農業なんかやるものかと思ってた。どうせ取り組むなら、自分のやりたいようにやろう。自分のやってみたい農業とは何か…。 それを突き詰めていったら、よりおいしくて、より健康で、食べた人が喜んでくれるであろう有機栽培による米作りに挑戦してみようと思ったわけです」。
三船さんの、いわばUターン転職ともいえる農業のスタートは、初めからこだわりの決意とともにあった。


“自然まかせ”ではない。

自然の営みを敬い、できる限り手をさしのべる。それがアイガモ有機栽培稲作。
三船さんが取り組むのは、有機栽培による米作り。農薬や化学肥料の使用を避け、さらにアイガモを水田に放つことで害虫駆除や除草も行ってしまうという農法である。

三船さんのたんぼのアイガモやアヒル

アイガモが放たれた三船さんの水田。案内されて到着すると「グワッ、グワッ」と、“農作業”にいそしんでいたアイガモやアヒルたちがあちこちから集まってくる。なかなか人なつっこい。 アイガモ農法というと、なんとなく気軽でのんびりとした農法のようなイメージを抱きがちだが、実際は違う。


農作業中のアイガモたち

「まだヒナの段階から田んぼに放つのですが、まわりにはタヌキやイタチ、キツネなどの動物がいて、スキあらばと狙ってきますし、空からはカラスが執拗に攻撃を仕掛けてくる。うかうかしていたら、即、全滅ですよ」

アイガモを放つにあたってはまず、田んぼの周辺にぐるりと高圧線を張りめぐらせる。

侵入してきたら電気ショックで追い払うというわけだ。そして、カラスからの攻撃を避けるために、田んぼに4メートル間隔で糸を張らないといけない。ヒナを放つまでに相当な手間と労力が必要なわけだ。 それだけでもまだ、賢い敵相手には安心できないそうで、三船さんは毎日のパトロールを欠かさない。


到着してまず感じたのは、空気が清らか、そして水がきれいなこと。田んぼを見て気づいたことだが、道中で見かけた田んぼの風景とずいぶん違う。普通の田んぼはびっしりと緑の稲に埋め尽くされているが、三船さんのところは稲の株と株のあいだの隙間が広いので、なんとなく“まばらな”田んぼに見えてしまうのだ。
「アイガモやアヒルが自由に行き来できるよう、株と株の間隔を十分にとっているんです。それに十分な間隔があることで、稲ものびのびと成長できるというものです」

農作業中のアイガモたち

田んぼの中を観察してみると、「通路」のあちこちにアイガモたちの足跡が付いているのがよくわかる。 「自由に動き回って、土を撹拌してくれる。これがまた稲の成長にはいいのです」 そういえば昔、田植えの終わった真夏の田んぼで、田車を押して草取りと中耕をする農家の人の姿をよく見かけたが、いまはほとんど見かけなくなった。これも除草剤のおかげか。かつて人が行っていた夏の重労働の代わりを、アイガモたちがやってくれているというわけだ。

三船さんのところでは、最新の田植機や大型コンバイン、収穫した米を乾燥・モミスリするライスセンター建設など、機械化を積極的に推し進めている。その一方で、あえて非効率的ともいえるアイガモ有機農法を取り入れた対照的な組み合わせが印象的だ。うれしいことに、旧中和村を中心に三船さんの取り組みに賛同し、有機栽培を手がける農家の仲間の数が徐々に増えているそうだ。

強いこだわりを持って育てるだけに、三船さんが作る米は確かにおいしい。噛みしめるほどに米本来の味がする。そして当然ながら、手間がかかっている分、価格は割高だ。

「ありがたいことに片山産業さんをはじめ、関西や東海地区の業者の方からも契約栽培の依頼をいただいています」いまは高級米扱いされているが、普通の感覚で、より多くの方に食べてもらいたいのが、三船さんの願いだ。

米は日本人の主食であり、農業従事者が減るなかで安定供給していくためには、農薬や化学肥料を使った合理的な生産方法を基本とせざるを得ない。しかし、日本のこれからの農業、消費者が求める米作りのあるべき姿を考えたとき、少数派である三船さんのような取り組みの中に、日本の農業の可能性が見えてくる気がするのだ。